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「SALMO SAX」の推薦文(大友良英 /2003年) 山内桂さんは、突然ヨーロッパに来てベルギーでの私のステージのアンコールに飛び入りし、観客全員から拍手喝采を浴びている! 驚いた! この時初めて彼がただの純朴な中年の音楽家ではないことに気づいた。私たちは彼の川釣りの姿にだまされてはいけない。 20年以上サラリーマンをしてきた48歳のサックス奏者で、どこにも属さずに独自の音楽を探求してきた彼は、去年の秋、突然仕事を辞めました。彼はすでに非常に有能な音楽家として私たちに知られていましたが、都会とかけ離れた独自の人生を送っていました。 正直に言うと、私は彼の決断についてとても心配していましたが、彼は私の心配をよそに東京で何度かライブをした後、海外に飛び立ちました。 地方都市大分に在住し、鋭い批評心で世界の即興音楽に挑む音楽家。彼は、自分の音楽と現実の世界との距離を冷静に捉えている、新人でありながらベテランのアーティストなのだ。 わずか2か月後、彼は完璧なサックスソロを収めた初のCDアルバム「SALMO SAX」をリリース。 きっと、大分に帰ってすぐに録音したのだと思います。 彼のエネルギッシュで自信に満ちた行動にとても元気をもらいました。 現在の音楽シーンにおいて即興演奏は、ああすればこうなる的な様々な形式に囚われているように思われますが、私が強く言っておきたいのは、彼はそのような傾向とは無縁であるということです。 Japanese in the World Special 1 Rambling And Playing Of Salmo Sax In Europe; By Katsura Yamauchi 欧州即興紀行 先日(2003年11月3日)二度目の訪欧から帰りましたので、報告を交えて紀行文を書いてみます。大分在住の私は昨年10月、23年間のサラリーマン生活をやめ、音楽中心の人生を創り直すため、春のアムステルダムに一月間滞在し、今まで果たせなかった渡欧と、即興演奏の本場で音を聴き、また演奏する夢が叶いました。言葉も不自由で、ひとりこの歳(48歳)で無計画にヨーロッパに乗り込むのは、少々冒険であり実際緊張しました。帰国後、直ちにサックスソロによるファースト・アルバム「SALMO SAX」をリリースしました。 二度目の今回は退職一周年を迎える旅でもあり、少しばかり計画をもって臨みまし た。つまり、ミシェル・ドネダとの再会とシャリフ・ゼナウィ/gとの出会い、アムスのヒラリー・ジェフリイ/tbとのライブです。まだコネクション不足で多くの演奏はできませんでしたし、また、そのための旅でもあるのですが、良い体験ができました。ドネダとシャリフとのライブを中心に語りたいと思います。アムスとフランス一か月の旅です。 10月2日、リラックスしてアムス入り。 10月9日、アルルへ。ここまで来るとさすがに英語は通じにくいのですが、どうせ 大差はありません。ここにはゴッホの面影が。後日オーヴェールの墓やアムスの美術館にも行き、「ゴッホの旅」をしているようでした。10月10日、ドネダの待つトゥールーズへ。スペイン国境に近く、温暖で、パリから列車で4、5時間かかります。4月に大分でソプラノとソプラニーノサックスのミシェル・ドネダとベースの斎藤徹のライブがあり、その演奏に入れてもらい共感しました。それ以来の再会です。 駅でかれが出迎えてくれました。すぐ車へ。シアターがあると言います。どんなのかと思っていますと、川沿いの広場に着きました。会場らしいです。すぐの片側にはアパートが。日本では考えられません。四日間の公演で初日のきのうは大丈夫だった、きょうは分からないと言います、楽しそうに。かれは劇団の音楽担当でガラクタや中古の機器で作ったエレクトロニクスを演奏、時々ソプラノを吹いて団員といっしょに動きます。広場の所々に装置が置いてあり、お客を誘導して舞台が変わっていくわけです。十数名の役者も劇も好感を持ちました。ストーリーは分かりません、フランス語ですから。 明るい月のもと、1時間半の演劇でした。「人々は高い金を払って大きな劇場へ行く、こんなものに関心を払わない」と言います。あのドネダが、こんな野外で30人のお客を前に無料演劇で演奏している、そして嬉々として音を楽しんでいる、驚きとともに本当に頭が下がります。公演終了後、プラタナスの並木道を小1時間車をとばしかれの家へ。広々とした畑や草原の中にその村はありました。チャーミングな奥さんと可愛い娘さんが迎えてくれました。三階建てのその住まいは広くてくつろげ、二晩お世話になりました。 10月11日、日中のシアター後、かれの友人、ジャン・マーク宅へ。そこで今夜は演 奏するのです。ジャンはダンスの教師で、来年家族でセネガルに2年間移住するそうです。開放的な人々の住むアフリカへ。何と自由で大らかな。そのかれのパフォーマンスとドネダ、私のトリオ。2部はチェロとギターのデュオ。最後に全員で、という構成です。30人近い観客は外での歓談に忙しく、なかなかホールに入ってきません。始まったのは9時頃になってからでした。その晩の月夜のように静かでファンタスティックな演奏でした。身に染みました。共演者や観客とすばらしい時間、空間を共有する喜びに、音楽をやっていて良かったと実感するのです。生産性のない音楽とか芸術は人間の生存に不可欠なのです。12歳の少女は "I think your sax is well" と言ってくれました。その一緒にいた友達は即興演奏にダンスで時々参加するそうです。海外で初めての報酬もいただきました。 終了後、演奏者も観客も皆テーブルにつき、ワインと食事をゆっくり楽しみました。目玉が飛び出るようなワインも回りましたし、ジャンが時間をかけて煮込んだ豆のシチューはおいしかった。みんなこうして人生を楽しむのでした。ドネダは自然が好きで、かれやかれの家族と家の付近や近くの日本のような山を散策したりしました。「自分は即興演奏を選択し、作曲は10年前にやめた。即興演奏の状況は厳しく金もないが、世界中に友人がいて、旅をして幸せで、そういう人生を選択した」私が自分のことをビギナーだ、と言うと、「自分も常にビギナーだ」と語りました。 翌夕、ドネダは私をトゥールーズ駅に送り、シアター最終日に向かいました。 10月12日、ボルドー乗換えでパリには夜9時着きました。ドネダが連絡していてくれてシャリフ・ゼナウィが迎えに来てくれました。初対面でした。シャリフはギタリストで、イヴリエというオーケストラを主催。故郷ベイルートで即興の音楽祭をしたりして日本のミュージシャン達との交流も盛んで す。若いのに静かで動じず、繊細です。メトロでモンパルナス駅近くの友人のアパートに連れていかれました。ジャッセムというソルボンヌ大学生でクラリネット奏者の部屋に8日間お世話になりました。当人はよそに泊まりに出て、たまに顔を見せました。 10月13日、レ・ザンスタン・シャヴィレというクラブでのイヴリエ・セッションに参加しました。大友良英の紹介からそのクラブを知り、オーナーを通してメールでシャリフを知ったのでした。9人の様々な国の個性的な、優れたミュージシャンが集まりました。オーケストラと言っても譜面なしでの即興演奏、聴衆なしのリハーサルは真剣勝負でした。そして1年に1回コンサートをやるとのこと。全体的に小音でいわゆる音響系的なサ ウンドと言って良いでしょうか。 10月15日、レ・ヴォーツでのコンサート。会場はもと駅だった所で道路の下にいくつかトンネルが並んでおり、そのトンネルをレストランや演奏会場などに利用しているユニークかつ気分の良いところでした。料理もおいしかった。1部は私のソロ、2部はシャリフとソプラノサックスのステファン・リーベス とのトリオ演奏です。観客は30人程。いよいよパリでの第一声。どう感じてくれるのだろう。アルトで静かに静かに入っていく、そう、一度スイッチを入れたなら後は自動的に音は感応していき新しい発見をしながら演奏は続きそして終わる。後半少し観客を意識し音に影響が出て息がわずかに乱れてしまう。次にソプラニーノでSALMOを演奏。この曲はある意味いつも挑戦なのです。曲と即興との綱渡りの演奏であり、即興ファンに対してもジャズファンに対しても、それ以外のファンに対しても、そんなことに意味があるのかと自分に対しても挑戦なのです。どちらの側に対してもどの側に対しても、どう?という気持ちと、良いでしょ!という気持ちで臨むのです。シャリフは現在の即興演奏の傾向とは違うが理解できる、と言ってくれました。40分位吹いたかな。その日やっと会えた二人の日本人、Ams.のKと NYから来たMは今までで一番良い、と言ってくれました。ステファンはソプラノ一本、即興のみ、という潔く、若い勉強家です。色々なテクニックを駆使します。シャリフが音のベースを創りステファンは時に挑戦的に、私がそのつなぎ、といった感じでした、もちろんそれらが一転したりするのですが。安らぎと緊張感が混在する演奏でした。1部2部とも観客の反応は良いようでした。深い所から来るような拍手でした。 10月16日、芸術家たちのデモに参加しました。右寄りの現政権は芸術に対する補助金等の削除を続けておりそれに対する抵抗運動です。実はこの日イヴリエ・セッションだったのですが、メンバーが皆参加するため急遽中止になったのです。この事にしても今回も日本と他の国との違いを感じました。日本人はよく外国の相違を語りますが、実は世界の中で日本が特殊なのだということです。 10月20日、アムスに戻り、21日ザール100でのライブを終え、そんな事や色んな事を思いながら、11月2日、成田に向かいました。 (文中敬称略) 2003年11月10日 山内 桂 音場舎通信63号 2004年2月29日発行 掲載 / TOP / CONCERT SCHEDULE / ANOTHER SCHEDULE / BLOG / MUSIC & CD / PROFILE / REVIEWS / PHOTO / MOUNTAIN / AQUA / LINK / HOME / Salmo Fishing Association © Katsura Yamauchi 2003 |