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Introduce 大分の山内さんからCDが送られてきた。いわゆる音楽のシーンとはまったく無縁な場所で、サラリーマンをやりながら20年以上にわたって、誰にも似ていない独特の音楽を淡々と作ってきた48歳のサックス奏者山内さんが、突然仕事をやめたのが去年秋。すでに知る人ぞ知る的な音楽家であったとはいえ、なにぶん音楽の世界どころか都会そのものにも免疫のない人だ。正直心配した。 ところが、こちらの心配をよそに、彼は東京で何本かライヴをやった後、なんのあてもないのに唐突に渡欧。 なんと、ベルギーでは私のステージに飛び入りし、満場の聴衆から大喝采を浴びているではないか。 この時、私はこの人がただの素朴でピュアな中年芸術家なんかじゃないのを確信した。 まるで渓流釣りでもしてそうな外見にだまされてはいけない。 この人はこれまでも、大分の地から世界の即興音楽に対して鋭い批評精神を持って勝負を挑みつづけ ていたのだ。 新人であって、老練、自分の音楽と現実世界の距離を明確に見据えた確信犯なのだ。 あれからわずか2ヶ月、今度は完全なサックスソロによる初のリーダーアルバムの発売。 帰国後、大分にもどってすぐに録音したに違いない。 その勢いと、自信に満ちた演奏は、すがすがしくもある。 即興音楽の語法のようなものが固定化し、こうすればいい演奏になる・・・というような基準のようなものがいくつも出来上がってしまった現状で、彼のやっていることがそうした即興スタンダードとは無縁のものであることも特記しておきたい。 孤立無援に独自の進化を 四半世紀近い音楽活動のなかで、これまでわたしは、東京や大阪といった巨大な音楽シーンが あるところとは別の”地方”の都市で驚愕すべき3人の即興演奏 家に出会ってきている。いずれも 年齢は40代。皆ほぼ孤立無援に独自の進化をとげてきたにもかかわらず、正統派といえるような 演奏能力と独自の音楽性を 持った人たちだ。 一人は札幌のピアニスト寶示戸亮二。内部奏法を駆使した演奏と美しい響きを持った独特の音楽 は、既にCDで知っている人も多いだろう。 もう一人はI.S.O.をともに結成し、今や欧米でもその名を知られる山口の奇才、パーカッションの 一楽儀光。彼のような方法で音響と即興演奏の接点を 探った音楽家は彼以前には世界中を見渡し てもいなかった。 そして残る一人が今回紹介する大分のサックス奏者山内桂だ。彼の場合は他の2人と異なりCDの リリースもなければ九州以外での演奏経験もほとんどない。それでもこの世界では知る人ぞ知る的 な存在で、大分に行ったミュージシャンから彼の噂は何度も聞いていたし、なにより数年前にI.S.O.の 大分公演の際に彼が参加したセットの素晴らしさとその音色の美しさがわたしの頭の中にずっとひっ かかって いて、いつか東京でも紹介したいと思っていた。 昨年の暮れ、その山内さんから突然電話がかかってきた。仕事をやめてこれからちょくちょく東京
にも出てくるから、いろいろな場やミュージシャンを紹介してほしい、という。大分で20年以上サラリー
マンをしながら既存の音楽シーンとはまったく無縁にひょう ひょうと独自の音楽を醗酵させてきた山内
さんが、48歳にしてとうとう動き出したのだ。無論よろこんで協力することにした。ただしそれは親切心
なんかからではない。彼がこれからやるであろうことを聴いてみたいという我がままな好奇心で引き受
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